TOKYOユニークベニュー
観世能楽堂は、今年2月、東京都教育委員会より、「国指定重要無形文化財(能楽)に係る文化財施設」の認定をいただきました。
少し長い名称ですが、専門委員の調査にはじまり、文化財審議会の答申をへて、『国家指定芸能である能楽を、上演するに相応しい設備と格式を整えた文化財施設』という、お墨付きを頂戴したのです。
東京の中心地、銀座の高級ブランドやレストランなどが集まる最先端の複合ビルに、遥か700年の時空をこえて、文化財建造物が共存する、という面白い現象がおきています。
観世能楽堂は、東京観光財団より、「ユニークベニュー」にも選定されました。それは最近よく耳にする言葉ですが、「特別な(ユニーク)会場(ベニュー)」の意味で、美術館や庭園、寺社など、歴史的建造物などでイベントやレセプションを開き、特別感や地域特性を演出することを目的としています。もともとはヨーロッパではじまった発想で、ロンドン自然史博物館に至っては、年間約160回も活用されているそうです。
観光財団では、ユニークベニューとして都内38箇所を選出。東京アート&ライブシティのエリアでは、観世能楽堂のほかに、浜離宮恩賜庭園と東急プラザ銀座が選ばれています。
観世能楽堂でも、インスタグラマーを招いて日本文化を世界に発信する「インスタミート」を観光庁が主催するなど、政府機関や自治体、民間団体が、PRなどに大いに活用されています。
中でも話題になったのが、グーグル社の『月面探査レース』に出場する日本チームが、能舞台で報道発表を行ったことです。日本人が古来よりいだく月へのロマンを、自らの夢の実現に重ね合わせ、観世能楽堂から世界にメッセージを送ったのです。
700年におよぶ観世宗家の系譜を受け継ぎ、伝統文化を守るコンサバティブな姿勢と、日本文化を世界に発信する斬新な柔軟さをもちあわせ、新しいメッセージを観世能楽堂は発信しています。
5月4、5日の2日間、GINZA SIX屋上で銀座ではじめての薪能が開催されました。夕暮れの空に篝火が萌え、二十六世観世宗家と嫡男三郎太、山階彌右衛門ほかによる能「土蜘蛛」が特設舞台で上演されました。
闇夜を焦がす炎と樹木のシルエット、ライトアップされた東京タワーを眺む最高のシチュエーションの中で、千筋の糸を繰る蜘蛛の妖怪が、幻想的な銀座の夜を演出したのです。上演中、刻を告げる和光の鐘の音が夜空に流れましたが、これも銀座ならではの風物となりました。
田中敏之(観世会 参与)