「ADACHIGAHARA」-銀座の地下に鬼が棲む 出演者特別インタビュー!vol.2

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「ADACHIGAHARA」-銀座の地下に鬼が棲む 出演者特別インタビューvol.2 をお送りします!
公演への意気込みや舞台裏などをお伝えしていきます。
このインタビューだけの内容ですので、ぜひお楽しみください。


武田宗典さん・篠崎“まろ”史紀さん・森谷真理さん・
亀井広忠さん・加藤昌則さん・家田淳さんにお話を伺いました!


――篠崎さんにとっては能楽の囃子、謡との共演となりますが、この醍醐味や新たな発見があれば教えてください。


篠崎「人間が持つ五感以上のものが必要だと感じました。芸能は決まった形を踏み、修練を重ねることで上達していくものです。当然クラシック音楽にもメソッド(方法)があり、その勉強法も表に出ている。でもお能は教本も無ければメソッドも世には出してくれないので、極論で言えば“謎”なんです。
 その謎が創り上げた不思議なエネルギーが、クラシック音楽が積み上げてきたエネルギーとどのように融合するかは常に楽しみにしています。
 普通の考えで言ったら、『お前たち何やってるの?』という感じですよね。もしかしたら寿司屋でカレーライス出そうとしているんじゃないのと思われても仕方ない。だけど、常識を超えたところに生まれたものが、その後当たり前のもとして定着した例は沢山ある。日本の国民食とも言われるようになったカレーライスやラーメンがそうですよね。
 僕らの試みも、もしかしたら100年後には当たり前になっているかもしれない。でもその最初を創らなければ、何も生まれないのです。
 日本はかつて、文化を融合させることはあまり得意ではありませんでした。クラシック音楽にしても学問として入ってきたものを西洋のメソッドで勉強するわけですから、明治維新、第二次世界大戦と邦楽を含めた日本の文化がないがしろにされた時代もありました。
 でも、それすら乗り越えてきたお能や歌舞伎は物凄く強いエネルギーがある。今だからこそ、日本が日本人として日本人の為の何かを創り上げる時に来たのではないかと思うのです。
 僕ら日本人はお能についてきちんと勉強する機会はほとんど無かったけれども、不思議なことに能舞台の雰囲気や鼓や笛、地謡のリズム、お面をつけた演者の動きを通して、なんとなく喜怒哀楽の心情が伝わってくる。きちっと観たわけではないけども、なんとなく知っている。そういう反応は、僕らに刻まれたDNAによるものだと感じています」


――亀井さんはクラシック音楽との共演となりますが、この醍醐味、新たな発見があれば教えてください。


亀井「以前に野村萬斎氏の演出、世田谷パブリックシアターで安達原を上演した際に、冒頭にエスイーという効果音を入れた事もございましたが、此の度は演奏家による本物の音楽。どのようになるのかはまだ分かりませんが、様々な音による『仕掛け』を楽しみに致しております」


――森谷さんはソプラノで鬼女を表現されますが、鬼女を演じるにあたり意識していることはありますか?


森谷「初めて『安達原』というお話を読ませてもらって、主人公が年寄りの鬼女ということに驚きました。オペラではソプラノの主人公が年配という設定があまりないので、とても新鮮に感じました。自分の年齢よりも年上の役は初めてです。
 そして起承転結というか、きちんとお話に山があって、日本独特なドラマチック性も感じますね。
 そういう西洋との作品の違いもすごく楽しいです。私は能の中で完結している鬼女の役をクラシック音楽を通して可視化する役目なのかなと感じています」


――家田さん・加藤さんは、前回『はごろも』に続き、今回も能楽とクラシックがつくる新たな世界をつくるため演出と作曲を担当されています。作曲にあたって難しかったこと、魅力的に感じたことがあれば教えてください。
また、東京アート&ライブシティのこのような取り組みの可能性について感じることをお聞かせください。


家田「このシリーズにおける私の役割は、通常の意味での演出というよりは、作曲の加藤さんが音楽で描こうとしている世界を具現化できるよう手助けすることです。加藤さんはこの作品のために一から作曲されるので、稽古してみないと音もわかりません。演出プランを事前に用意するのではなく、稽古して出てきた化学反応に即興的に反応していく感じです。何しろ出演者の皆さんが世界一流ですので、稽古を始めると本当にスリリングな音空間が生まれます。
 回を重ねるごとに、伝統芸能と西洋音楽がぶつかるセッションがお互いにより踏み込んだものになり、新しい表現が生まれているのを感じます」


加藤「前例にないことへの取り組みはいつでも大変です。しかし、現代、表現はボーダレスになり、様々なジャンルとのコラボが積極的に行われています。これはそれぞれのジャンルが新たな可能性を探り、表現を広げ、新たな何か生み出すことへの必要性や興味を持ち始めた証であり、それはまた新たなジャンルなり、表現を生み出す可能性があることを示唆していることだと思うのですが、能もクラシックもそれぞれに伝統を重ね、新たな可能性を欲しているのかもしれません。
 『はごろも』で初めてのそのコラボに挑戦をしましたが、その手応えを感じたから、今回新たに『安達原』のコラボのステージが生まれたのだと思っています。ある程度長い持続の中から生まれる新たな伝統のために、その機会を与え続けてくださることに感謝の念が絶えません」


プロフィール


武田宗典 Munenori Takeda (能楽師シテ方観世流)
 (公社)能楽協会会員。重要無形文化財総合指定保持者。(ー社)観世会理事。早稲田大学第一文学部演劇専修卒。父・武田宗和及びニ十六世観世宗家・観世清和に師事。2歳11か月で初舞台、10歳で初シテ(主役)、以後、「石橋」「乱」「道成寺」「望月」「翁」等を披く。海外公演多数。2014年アメリカにて、能と現代オペラのニ部作競演『Tomoe & Yoshinaka』を企画し、両作品で主演を果たす。2021年(ー社)EXTRAD主催公演において、試作能「桃太郎」を製作・主演。『武田宗典之会』主宰。舞台公演の他、「謡サロン」等の能楽講座・ワークショップを国内外で多数開催している。


篠崎“まろ”史紀 Fuminori Maro Shinozaki (ヴァイオリン)
 愛称 “まろ” 。NHK交響楽団第1コンサートマスター。3歳より父にヴァイオリンの手ほどきを受ける。15歳の時に毎日学生音楽コンクール全国第1位。高校卒業後ウィーン市立音楽院に入学。翌年コンツェルト・ハウスでコンサート・デビューを飾り、その後ヨーロッパの主要コンクールで数々の受賞を果たす。1988年帰国後、群馬交響楽団、読売日本交響楽団のコンサートマスターを経て、97年に34歳でNHK交響楽団コンサートマスターに就任。以来 “N響の顔” として国内外で活躍中。96年より東京ジュニアオーケストラソサ工ティの音楽監督、WHO評議会委員を務め、そのコンサートにも熱心に取り組んでいる。2020年度第33 回ミューシック・ペンクラブ音楽賞受賞。


森谷真理 Mari Moriya(ソプラノ)
 武蔵野音楽大学大学院首席修了後、ニューヨーク・マネス音楽院プロフェッショナル・スタディーズコース修了。メトロポリタン歌劇場『魔笛』夜の女王で成功を収めた後、リンツ州立劇場(墺)専属として『マリア・ストゥアルダ』、『椿姫』のタイトルロールなど様々な役を演じ、ウィーン・フォルクスオーパー、ライブツィヒ・オペラなどにも客演。びわ湖ホール『リゴレット』ジルダで国内オペラデビュー以降、同『ローエングリン』工ルザ、日生劇場『ルチア』、ニ期会『ルル』『蝶々夫人』『サロメ』いずれも題名役で高評を得る。コンサートでも国内外の主要オーケストラと共演し、最近ではオペラ・アリアによるN響公演で絶賛を博す。令和元年「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」で国歌独唱を務めた。


亀井広忠 Hirotada Kamei(大鼓)
 能楽囃子葛野流大鼓方十五世家元。1974生まれ。父ならびに故・八世観世銕之亟に師事。6歳のとき「羽衣」で初舞台。以降、囃子だけでなく子方などでも数々の舞台をつとめる。
新作能や復曲能を多数作調。2004(平成16)年ビクター伝統文化振興財団賞奨励賞、2007(平成19)年第14回日本伝統文化奨励賞を受賞。2016(平成28)年1月葛野流十五世家元を継承。
「三響會」「広忠の会」「佳名会」主宰。


加藤昌則 Masanori Kato(作曲家・ピアニスト)
 東京藝術大学作曲科首席卒業、同大学大学院修了。作品はオペラ、管弦楽、合唱曲など幅広く、創意あふれる編曲にも定評がある。多くのソリストに楽曲を提供、共演ピアニストとしても評価が高い。独自の視点、切り口で企画する公演やクラシック講座などのプロデュースカにも注目を集めている。NHK-FM「鍵盤のつばさ」番組パーソナリティー。長野市芸術館レジデント・プロデューサー。


家田淳 June Iyeda(演出)
 10代をアメリカで過ごす。国際基督教大学卒業。エディンバラ大学に留学。RADA(英国王立演劇学校)元校長ニコラス・バーター他に演技を学ぶ。二期会、新国立劇場、ラインドイツオペラ他で世界的な演出家の演出助手を数多く務める。英ロイヤルオペラハウスにて研修。オペラ、ミュージカル、コンサートの演出・翻訳を多数手がける他、字幕製作(日・英)でも活躍。最近では2022年1月金沢歌劇座にて、台本英訳(英語歌詞の執筆)を手がけたオペラ「Zen」が世界初演された。洗足学園音楽大学ミュージカルコース准教授。