4年の挑戦-芸術家たちが生みだした得がたい世界

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 2018年から4年に亘って観世能楽堂さんとのコラボレーションに挑んできました。銀座4丁目の王子ホールと6丁目の能楽堂。同じ町内会と言えども晴海通りを挟むと近いようで遠い。それはクラシック音楽と能楽の距離でもあると言い続けてきました。同時に、近づくことを望み続けた4年間でもありました。


 最初の年はお互い別々の演目を上演。知ることから始める、とにかく能舞台に上がる。その後コラボ継続のお話しを受け、武田宗典さんはじめ観世会の皆様、作曲家・加藤昌則さん、ヴァイオリンの篠崎史紀さん、ソプラノの森谷真理さんと歩むことになり、能楽堂で初演、王子ホールで再演させて頂くことになります。『はごろも』で同じ舞台に立ち、少し近づく。音楽は決して邪魔にならないように舞踊の合間に入り込む。加藤さんにもっと踏み込みたいという欲求が残りました。


 そして今回の『ADACHIGAHARA』。更に深く交わるために武田宗典さんが選んでくださった演劇性が高い作品『安達原』に、加藤さんが音楽で大胆に切り込んで、より力強い人間ドラマになっています。そこからは様々な人と楽器の声が聴こえてきます。能面の下のくぐもった、よく鍛錬された声、謡の朗々と響くコーラス(と敢えて申します)。皆さま魅惑の低音。対してソプラノを筆頭にヴァイオリンの弦の震えるような声、新たに加わったクラリネットの喉笛の息を感じる声。それらが人間の孤独や怒り、畏れ、森羅万象を描き、一体となってカオスのようなクライマックスを迎えます。やがて人が去り、明かりが暗くなった舞台に残る篠崎さんと大鼓の亀井広忠さんの気が満ちます。すべてを削ぎ落された佇まいから発する鼓の音と掛け声。楽譜で決められたものではない、亀井さんの感性によるものです。お見事です。


 コンサートホールの音響空間でこその声の饗宴をお楽しみいただければ幸いです。


星野桃子(王子ホール支配人)